フッ素の人体影響の研究

培養細胞に染色体異常を誘発する物質は発ガン性や遺伝毒性を有することが疑われる。歯磨き粉に添加されているフッ化ナトリウム(NaF)がヒト培養細胞に染色体異常を誘発することを報告し、その染色体異常誘発作用を実験によって詳細に検討して作用メカニズムを推定し、文献的考察を加えて、その人体影響を考察した。
先ず、NaFはDNAに塩基損傷を誘発する作用基をもたないことと、誘発する染色体異常の形態学的特徴から、NaFの染色体異常誘発作用は、DNA合成を阻害することによると推測した。
次に各臓器で染色体異常を起こす可能性を考察した。塗布や洗口に用いられる高いNaF濃度では、口腔内あるいは胃で希釈されたとしても、DNA合成を行っている細胞に染色体異常を誘発する可能性が否定できない。しかしその数は極めて少数であり、染色体異常が誘発されてなお生存可能な細胞はさらに少数であると考えられた。また、吸収されたNaFが血中などで希釈された場合には、骨髄や生殖細胞においては染色体異常を誘発する濃度以下になると考えられた。従って、フッ素が発ガン性や遺伝毒性を有する可能性は極めて低いと結論した。
 類似のDNA合成阻害剤の発ガン性や遺伝毒性についてのデータが蓄積されているが、今なお陽性と判断されていない。上述の結論は国際的な理解と軌を一にするものである。一方で、ヒトの人体影響についてはヒトを用いた調査が最も信頼性があるので、今後も疫学的調査を継続する必要があることも指摘した。

関連文献

岸 邦和、外村 晶:フッ化ナトリウム(NaF)の変異原性について フッ素研究 5, 35-41.1984.

岸 邦和:ヒト・リンパ球の細胞周期各相への短時間処理によるフッ化ナトリウムの染色体異常誘発能の検討.杏林医学会雑誌16,199-203. 1985.

坂本幸哉、野村大成、石井 裕、岸 邦和:環境汚染物質ウレタンガスなどによるマウスでの染色体毒性と体細胞突然変異.昭和59年度「環境科学」特別研究 研究成果報告183-185.1985.

石田貴文、岸 邦和:環境変異原検出のための霊長類細胞株の樹立と性状解析.昭和63年度科学研究費重点領域研究人間環境系研究成果報告168-169.1989.

石田貴文、岸 邦和:環境変異原検出のための霊長類細胞株の樹立と性状解析.平成元年度科学研究費重点領域研究人間環境系研究成果報告.1990.

Kishi, K. & Ishida, T.: Clastogenic activity of sodium fluoride in great ape cells. Mutation Res. 301,183-188. 1993.

岸 邦和:フッ素の変異原性と人体への影響-染色体異常の生成メカニズム並びに文献からの考察- 小児歯科臨床25(4):84-93. 2020.

講演資料

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次